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Contribution & Interview

靴屋がマスクを作る意外な理由

2020.9.28

コロナ禍でマスク不足が大きな問題となる中、異業種ながらマスク製造に乗り出した企業は多い。そんな中クラウドファウンディングを利用して、マスク製造を行った靴メーカーがある。「今さら」と言われそうな時期に使い捨てマスクを作り始めたのには「未来へつながる理由」があった。

プログレッソとは

話を伺ったのはケミカルシューズのメーカー、プログレッソ株式会社。ケミカルシューズとは主にナイロンなどの化学繊維でできている靴で、革靴などより安価で軽く、カラフルにできることから性別年齢を問わず広く人気がある靴だ。

プログレッソのケミカルシューズ

靴は不満が出やすい製品

靴は購入後に不満が出やすく、満足度が低くなりがちな商品だという。下記のような靴への不満は、誰もがひとつやふたつは感じたことがあると思う。

・履きづらい(靴ずれができる、痛い)
・滑る・歩きにくい
・ヒールがすぐに減る・取れる
・雨が染みる
・臭い
・すぐ汚れる

こうしたお客様のご要望に答えるにはオーダーメードが一番だが、それだとどうしても単価が高くなってしまう。「価格を上げずにお客様の満足度を上げる」ことが靴メーカーの大きなミッションとなった。

そしてケミカルシューズの世界では「新素材をいち早く見つけて靴に取り入れること」がひとつの解になる。抗菌素材、撥水素材などの活用だ。

新素材を求めて

プログレッソではすでに「ニット製の靴」を製品化し販売している。
ニットは伸縮性に優れ軽いため「履きやすい靴」にできる。編み方次第で通気性も得られる。ただし、水にはめっぽう弱い。これを「伸縮性を損なわない特殊な防水加工」をすることで解消した。

濡れないニットの靴はヒット商品となった。「足ムレが減った」「軽くて歩きやすい」と好評だという。

ニットの靴

ニット製の靴の成功を受けて「糸を突き詰めてみよう」と思った担当者が、次に見つけた素材が「グラフェンバイオファイバー」だった。グラフェンは鉱物の一種で、フランスの湖の底から発見された素材。靴にとってメリットとなる特長を多く持つ。

「遠赤外線吸収率の上昇」効果で暖かい靴が作れ、「抗菌機能」「吸湿速乾性」は清潔さを保つにはうってつけだ。「静電気防止」「紫外線遮断」の両機能は肌荒れ防止になる。硬度は鉄の1000倍と丈夫さもあり、自然から生まれた素材のため環境に優しい。

担当者はすぐに日本国内での独占販売権を取得した。

マスク製造へ

グラフェンバイオファイバーを使った靴の製造に取り掛かろうとした矢先、新型コロナウイルスが蔓延し始めた。ただでさえ、年々市場が縮小し続けていた靴業界にとって靴を履かない「在宅」は大きな痛手だった。

靴の製造には「縫製」が欠かせないことから、ラインを活かしてマスクを作り始める同業者も多かった。プログレッソにも中国の縫製工場から「マスクを作りませんか」という問い合わせが来はじめた。

どうせならと「グラフェンバイオファイバー」を使ったマスクを作ることを決めた。この素材を広く世に広めるための第一歩にしようとしたのだ。

クラウドファウンディングを活用し約30万円の資金も調達。これも原資にグラフェンを織り込んだ不織布を開発、「夏でも快適」「肌に優しい」高機能マスクとして完成させた。

1枚あたりの単価が高いマスクにはなってしまったが、たしかにチクチク感は少なく匂いも少ないように感じる。

グラフェンバイオファイバーを使ったマスク

マスク製造で手応えを掴んだ担当者。今後はグラフェンを靴だけでなく、ソックス、シューズインナー、アンダーウエアなどへ展開していくという。すでにアンダーウエアの試作品が出来上がってきている。マスクも使い捨てではなく、洗濯可能なものの販売も開始している。

濡れないニットにグラフェンを織り込んだ「新たな糸」も開発中だ。

靴とマスクの意外な関係。新しい技術や素材が広まっていく過程は見ているのも楽しい。
新しい挑戦を応援したい。

COMPANY PROFILE

プログレッソ株式会社
神戸市長田区神楽町4-4-4大久ビル102号
Tel:078-643-0036

東京支店:新宿区新宿4-4-17ヒロノビル 4階
Tel:03-5361-8766